「ニュートンの海」読了

この本を読むまではあの有名なプリンキピアの著者で、ニュートン力学創始者
ぐらいにしか、思っていなかった、つまり、古典の人、そして、自然現象に対し
ロジカルな視点を持つ、「科学の人」で、非科学なモノには興味がないのかと、
そう思っていた。
が、この本はそういう認識が誤りであることを伝える。
予想を裏切り、最後まで物理という単語は出てこない。
まず、ひとつの事実としてニュートン以前に物理学はなかった。
あるのは数学と哲学と神学で、彼自身のキャリアも神学者としてスタートする。
(最終的にはイギリス造幣局長官職に就いている)
神学的な下地があるせいか、彼は神への不敬を反省し、純潔を保とうとする。
つまり、生涯独身で禁欲生活を過ごしている。
彼は、自分専用の速記文字を作り、自分の発見した事柄を他人の読めない形式で自分だけのノートに記述する。
この秘密主義が周囲との問題を起こす原因になるのだが、本人は発見したことを公表し、他人と議論するのが面倒だと感じていた、にも関わらず、自分が既に知っている事柄が発表されると怒り出す。
仕方がないので、周囲の人間がオトナにならざるを得ない。
ハレーや、オルデンバーグなどは好意的に接していたようだが、フックやライブニッツとは決して仲が良かったわけではないらしい。
特に微積分をライブニッツが公表した後の、「俺が先に見つけてたのに!」と憤り、罵りあったという事実は興味深い。
また、プリンキピア出版の理由がハレーになだめすかされて「誰にでも読める形にしろ」といのも面白い。
つまり、この人の頭に発表という概念はなかったらしい。
彼の興味は、(微積分に代表される)数学だけではなく、化学、錬金術キリスト教研究まで、多岐に及んだ。
つまり、「科学の人」というのは正しくない、いろいろやってみてそれまでの学問体系から「科学というジャンルを分岐させた人」なのだ。
最終的にそのなかの一つのジャンルとして「物理」が切り出されている、ということに気づかされる。
天才の伝記というよりは、変人の伝記として楽しめる本である。
少し話が前後するが、ライブニッツも、「数学の人」兼「ドイツの外交官」という事実もこの本で知って驚いた。
この時代の学問の時代背景を知る意味でも面白い本だと思う。
メモ:
ニュートンの海」
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書評(YomiuriOnLine:amazonのレビューよりもこっちのほうが面白い)
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20051003bk04.htm