書評:私が愛した東京電力―福島第一原発の保守管理者として

著者は、蓮池透氏、最近はメディアに出ることが少なくなったが、拉致家族会だった人(過去形)であり、また、東電で部長職を務められていた人でもある。
かつては家族会の彼の発言が神がかってた時期もあり、また、それが故にこの人会社でもうまくやっていけるのかな?と不安にも思ったもんだが、大企業の中ではやはりこういう方はやりにくかったらしい。組織の中で拉致家族会の活動と両立させるのは大変な苦労があったのだということを知った。東電の中では部部長という役職をつけて窓際に追いやられ、いたたまれなくなり早期退職を申し出ると「東電とは縁を切れ」といわれたのだそうな。その後、家族会からも退会させられている。あまりにも重すぎる。
本書は福島第1原発で実際に働いていた東電社員からの貴重なドキュメントである。原発ジプシーや、福島原発でいま起きている本当のことでは、下から見上げた偉そうな「東電社員」が描かれることが多いが、果たして現実の東電社員はどう浪江町で過ごしていたかというと、決して幸せとは言えない生活であることが本書を通じて知ることができる。彼らもキッチリ被曝している。ただ、作業時間がズレてて、現場作業員が知らない間に現場に出てるだけのことだということがわかる。
国営ではなく「株式会社」が原発を運転しているんだから、利益と安全管理の綱引きが存在する、必要以上の安全措置を取るぐらいならコストダウンして利益を追求する、というある意味で当たり前の、しかし、なかなかマスコミでは語られない切り口での現実が語られる。彼自身、コストダウンのためにスプリンクラーを減らすという業務に従事していた過去を吐露している。更なる安全措置を講じた場合「今までは安全ではなかったのかと言われる(だからリスクに対して対策が取りにくい)」という大きな問題にも切り込んでいる。
大変、重い現実が書かれてある本で決して良い読後感は得られない。だが、確実に読んでよかったと思える。なぜなら、当事者の言葉は報道されない事が多く、知っておいたほうがいいと思うからだ。著者は「福島第1原発で働いた」ことと「核燃料サイクルで高速炉の仕事をした」経験から「原発は自滅する」と考えている。現実を知っている人のシニカルな目線で論じている内容は説得力がありすぎて、怖さすら感じる。原発周辺にGEムラが存在していたなんて、今までどの本にも書かれていなかったぞ。
こういう顔も名前も出ている人が語るには大変な勇気がいることだと思う。30年勤め上げ「縁を切られた」会社への複雑な思いを本にした勇気に敬意を表したい。