コロケーション

東証でアローヘッドが稼働開始したあと、arrownetというものも稼働開始している。
当時は、ふーんって分かったフリをしてたんだけど、さっぱり、わからなかった。
ネットワークは繋がってるじゃない、何でそこに独自ネットワークが必要なのよ。


東江さんの最期の翻訳と聞いて、文庫本になる前にと買ったフラッシュボーイズ に答えが出ていた。
なんか、とんでもなくスゴいことが書いてあるぞ、この本。アメリカで発売以来、物議を醸したという理由もよくわかる。
ちなみに、去年から東証は一部の株を1円以下で(10銭単位で)取引できるようにしたのだが、これの謎というか、理由も本書を読んで納得した。ははぁ。そうでしたか。各証券会社で厳格に管理されたNISAなんか、本書で言うダークプールっぽいんですが、ははぁ、そうでしたか。と、納得の連続であった。
ただ、本書では買おうとした瞬間に値動きする、誰よりも早い取引を「悪」としているが、2009年のロイターの記事で既に指摘されているように

板に売り注文が出てるのをみて買い注文を入れるのだが、アローヘッドでは、これまでの100倍というスピードで約定されてしまうため、買おうと思った次の瞬間には売り注文がなかったという事態が容易に起きうる。(ロイター記事より)

この話自体は、公開されている情報だ。アメリカではこの動きが本当に「謎」扱いだったのだろうか。


ネットワーク屋にとって、早さとは、Mbpsとかで表される「帯域」を表す。しかし、本書で語る「早さ」は物理的な群速度を語っている。ネットワーク屋が分かる範囲だとpingで見えるレイテンシのことだ。たいてい、ミリ秒の世界なのだが、それよりも小さな時間で通信をしている。こんな世界があるのか。早さは金になるのか。技術の発展が新しい市場を作ったのか、と、俺は好意的に捉えてしまった。本書では、これらHFTは圧倒的な悪者扱いなんだが、、、その悪者に妨害されない新しい市場IEXを立ち上げるために立ち上がる人たちの一大叙事詩のような話になっている。少しづつ人が集結するし、七人の侍みたいで、まぁ、立ち上がる人の成功譚は面白い。面白いが、新しくできたミリ秒以下の世界をすべて否定するようなやり方は懐古趣味が過ぎるのではないかと思わないでもないんだが、、値動きは「人が追える速度で変動すべき」で本当にそれが公正か?


本書では、セルゲイというロシア人が職場で書いたソースコードを自分自身にメールで送る、という話が出てくる。ご丁寧に自分のプライベートのメールに送り、ググって出てきた社外のsubversionにcommitしたときのbashの履歴は消すのだそうだ。(二重でソースを送る理由はあるのだろうが、本書に説明は無い)本書では頑張ってこのセルゲイを擁護しているのだけれど、、恐らくはビジネスロジックとは無関係な部分のみを持ち出し、他への流用が困難であることを説明しているのだろうが、、就業時間内に給料もらって製造したものを、黙って社外に出しちゃいかんだろう(そのためにパスワードが残るbashの履歴を捨てたと、主張してるが、言い訳になってないだろ)。ライセンスが微妙なものを社内システムに使うってのも論外(GPL違反をほのめかす文章もある)だし、訴えられても仕方ないと思うぞ、俺は。


他にもいくつか気になった部分があったが、持ち出したソースの話で一つ指摘を。

この捜査官は、ニューアーク空港でセルゲイから取り上げたパソコンとUSBメモリの両方にゴールドマンのファイルがあることは気づいたが、そのファイルが開かれないまま保存されていたことには気づかなかった。

とか、not openedは「開かれない」では意味が分からなくて、たぶん、「(ネット上に)公開されていない」って書きたかったんだろう。
あと、最期の章にある、光ファイバーよりもマイクロ波の方が早いってのは、たぶん、いや、かなり胡散臭い。光ファイバーを通るのは電磁波だし、マイクロ波だって、電磁波だ。どちらも同じ種類の波なので、波自体の早さに差が出る訳ではない。違いが出るのは中継装置や、符号化(あるいは変調方式)の違いだ。ただ、一般に、無線にすると拡散しちゃうから、秘匿性を上げるために暗号化も必要だろうから、その計算量のことを考えると、早さは理由ではないと思うんだが。単純にケーブルを敷設するよりアンテナを置いた方がコスト的に安いんだろ、電波で飛ばせばトンネル掘る必要も無いし。
と言う感じで、技術ネタは気になる点があるものの、株やFXやる人は知っておいた方がいい知識が満載だと思いました。