冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚
もっと早く見たかったのだけれど、観るチャンスがなくて、今日ようやく見ることができた。
決して人に薦めることはできない大変な猛毒映画。


町の小さな熱帯魚屋の気の小さな店主社本(吹越満)が、大規模熱帯魚店の主、村田(でんでん)と知り合い、実は連続殺人犯だった村田に取り込まれ、良いように支配される。
その支配までの流れが妙にリアルに描かれる。
声がでかい。馴れ馴れしい。押しが強い。よく笑う。デカイ声で笑う。うるさい。
こういった人間と、二人きりになったときに、笑わず、小声で命令されると大抵の人は逆らうのが難しいのではないか。
本当に怖い人間の姿というのを上手に描いている。
ストーリーは
最初に、偶然を装って娘の万引き事件で近寄り、その日のうちに自分の店を見せて、相手の店まで訪問する、そして娘の就職(更生)まで自分の店で面倒を見てやるという、この村田の行動力だけでも十分に怖いが、娘の万引き事件の面倒を見てもらった手前、社本は断ることができない。
次にあったときは「他の人から1千万を騙す道具として(魚に詳しい人間として)そこで黙って座っているだけでいい」「何もしなくてもいい、座っているだけでいい」「社本さんに説明は後でちゃんとするから」と、何もしていないのに社本を共犯者にする。いつの間にか、就職の面倒をくれていたはずの娘は人質に取られている。断ることが出来ない弱い男の制御の仕方を心得ている。その上、でかい声、でかい笑い声を村田は効果的に使う。そして、なにより「相手に考えさせる隙を与えない」「相手が疑問をもつ瞬間に次の情報を意図的に与え、疑問をうやむやにする」「相手の思考を麻痺させる」「時折褒めて、相手を自分好みに育てる」この制御が抜群にうまい。狙ってこれができる人間も珍しいと思う。
ヤクザに泣きながら謝るシーンすら「怖い」と感じさせる村田。すぐ頭を下げるその姿も怖い。
改めて、本当に怖い人間の姿というのを上手に描いている。
エロやらグロやら衝撃的な場面は沢山あるけど、それ以上にこの怪人物そのものが衝撃的であった。
終盤の社本の変貌も衝撃的で、ラスト数分は驚きの展開がある、観客に息を吐く余裕すら与えない、この映画独特のスピード感が、こちらの思考を奪い、支配されたかのような錯覚を受けた。