「普天間」交渉秘録 (新潮文庫) [文庫]

読了。
著者は守屋武昌防衛省の次官を務めていた、よりも、その後の小池百合子防衛大臣との確執の末に、次官を退任したことと、その後、山田洋行からの便宜供与を受けた、という事件の方が記憶に新しい。
本書では、これらのことについては、殆ど触れられていない。
彼自身が、防衛庁から、防衛省へと昇格する前後にやってきた仕事について書かれてある。
本書は、非常に面白い。
先週末、本屋で文庫本で出ているのを見かけて買って、寝る前にちょっと前書きでもみてみるか、と、読み始めたら200ページ以上読んでしまい、寝不足になってしまった。なぜ、面白いか、それは著者自身の交渉の記録が綴られており、それが興味を引くからなのだろう。
防衛庁時代に次官になってから、大野、額賀、久間、そして小池の4人の大臣の時代について記載してある。この間に、総理は小泉から安倍へと変わっている。本書の中では大野の仕事ぶりに驚いた。

アメリカとの交渉を戦い抜いた大臣の言葉には凄みがあった(p95)
総理は秘書官に「細田を呼べ」と命じた。
「それなら先に大野大臣を読んでください」
私は総理にそう頼んだ。これを勝ち取ったのは「大野大臣の頑張りであること」を私はまず示したかった。(p97)

著者が大野を高く評価していることがよくわかる、
著者自身も久間が辞任後に、後継を問われた際に、大野と額賀の名前を挙げている。そして、久間が問題児であったこともよくわかる。本書の後半では、久間氏の問題発言への対応についての話が出てくる。大臣と次官の関係がうまくいく場合と、うまくいかない場合では、こうも、差が出るのか、と嘆息が漏れた。
本書では、大野が頑張ってアメリカと合意に至った「普天間移設先」についての話が大半を占める。話を単純にすると、普天間はこのままでは危ないから別の場所に移すべき、と、日米で合意した内容を、沖縄の首長(県知事、名護市長、他)に説明し、移設先を名護市のキャンプ・シュワブにしましょう、という話。
この、アメリカとの交渉が合意したのが2005年。それから7年が経つが、未だに「移設できていない」現実がある。
つまり、日本は約束したことを守っていないことになる。
では、なぜ「移設できていない」のか。当事者たる、守屋次官の視点で、政府と沖縄との交渉の記録が綴られる。そこには、交渉術に長けた、沖縄の強さが見える。なんと生々しい記録だろうと、ため息が出た。次官は直属の大臣とだけではなく、官邸にいる総理秘書や、官房長官とも調整をしないといけないという現実がそこにはある。小泉が首相から、元首相になっても守屋次官をバックアップしていたことがよくわかる。小泉元総理の秘書である飯島が、安倍総理の時代になっても助言を出していたことが本書では綴られる。
辞めた人からも指示されるということは、それだけ有能だったということなのだろうが、そうした元総理側の人たちのバックアップを得て推進していたら、そりゃ、現職の総理や、大臣からは面白くはないだろう。この人が失脚した理由はそんな周囲の怨嗟が多いことが読み取れる。通常2年の次官を4年もやれば、普通の人以上に恨みを買うのはやむなしだろう。有能さもよく伝わるのだが。
本書の中で意外だったのは、石破(元防衛大臣)のやっていることだ。イチイチ防衛がらみの話題に食い込んでくるこの人は、本書では時折出てくる。なんとなく、この人の立ち位置がわかった。