死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

本作はタイトルの通り、地震以後、福島第一原発での「現場」で何が起こっていたのかをつぶさに記録に残した書である。
現場の声をよくぞここまでまとめたと、著者に賞賛を送りたい。
と、同時に恐ろしい現場に立ち向かった技術者に畏敬の念を禁じ得ない。

(ここにいる意味はないのではないかと言う若い運転員に対するリーダーの言葉(1号炉が爆発する前の1号炉、2号炉の中央操作室での会話))
「われわれが中操から退避するということは・・・・」
「われわれが・・・・・」
「ここから退避するということは、もうこの発電所の地域、まわりのところをみんな見放すことになる・・・・」
「今、避難している地域の人たちは、われわれに何とかしてくれと言う気持ちで見てるんだ」
「だから・・・だから、俺たちはここを出るわけにはいかない」
「頼む」
「君たちを危険なところに行かせはしない。そういう状況になったら、所長がなんと言おうと、俺の権限で君たちを退避させる。それまでは・・・・」
「頼む。残ってくれ」

こういう言葉を文字にして残すことは大変意義があり、冗談抜きでこういう人にこそ、国民栄誉賞とかあげて感謝しなくてはならない。この人たちの頑張りがなければ事態はもっと悪化していたからだ。
事実、吉田所長はこう語っている。

格納容器が爆発すると、放射能が飛散し、放射線レベルが近づけないものになってしまうんです。他の原子炉の冷却も、当然継続できなくなります。つまり、人間がもうアプローチできなくなる。福島第二原発にも近づけなくなりますから、全部でどれだけの炉心が溶けるかという最大を考えれば、第一と第二で計十基の原子炉がやられますから、単純に考えても”チェルノブイリ×10”という数字が出ます。私は、その事態を考えながら、あのなかで対応していました。だからこそ、現場の部下たちの凄さを思うんですよ。それを防ぐために、最後まで部下たちが突入を繰り返してくれたこと、そして、命を顧みずに駆けつけてくれた自衛隊をはじめ、沢山の人たちの勇気を称えたいんです。

本書のなかでは、数えきれないくらいの「死を覚悟」する場面が出てくる。現場から逃げず、不眠不休で最悪を回避するために努力した人たちがいたことは、やはり知っておきたかった。覚悟などメンタル的な要素もあるが、それ以上に、現場作業者の初動の早さも素晴らしいと思う。かなり、早期に消防車と電源車の手配を指示している。
本書を読んでよかったと思う。
官邸(菅直人、班目春樹などなど)側の話も興味深く、彼らも良い仕事をしているように思える。自衛隊がかなり良い仕事を現場でしていたこともよくわかる。


付け加えるなら、これは、個人の考えですが、国土が消えてなくなるかもしれない様な有事だったわけで、時の総理が現場に駆けつけるのもやむなしかな、とも思います。安全なところから、批判するんじゃなくてね、現場に行った勇気も菅総理の仕事のうちと、見ても良いように思いました。



この頃の記録を見ると、3/14には、マスコミ報道にうんざりし、現場では圧力が高くて水が入らなのでは?と心配し(実際、その通りだったらしい、水がなかなか入らない描写が本書にある)3/15には東電頑張れと、願っている。当時を思い返しながら読み進めました。