間違いだらけの物理学

著者は大変有名な人である。
また、本書に出てくる著者と接点のある人たちも豪華絢爛である。
その中でも、興味を引いたのはシュッツとの会話の思い出が語られている点である。
その昔、10年以上前ではあるがe_c_e_tはシュッツ 相対論入門で相対論を学んだ(リンク先は2版で新しくなっている)ので、「あのシュッツ?」と当時が思い出され、買ってしまった。内容はつまらない、かというと、とんでもない。凄まじく刺激的で面白かった。
たぶん、MullerのPhysics for future presidentを読んだ時の衝撃に近い。
なによりシュッツを検索(max plank研究所)して、「当時のシュッツは髪の毛を長くしていて、宗教画で見るキリスト像に似ていて」という描写にも度肝を抜かれる。。まぁ、テニスのアガシだってロン毛だったし、こういうこともあるわな。


最も興味を惹いたのは、「5章『飛行機が飛ぶ仕組み』の間違い」「6章『曲がった川の内側の流れが遅いから蛇行する』は間違い」
5章については、自分も「キッチリ俗説を信じていた」ため、エラい人のスゴさというのは知っていたつもりではあったが、改めて凄いなと、暴力的なまでの「知識」の凄みを堪能させていただいた。
6章については、実は自分も昔から疑問に思っていた「茶碗をかき混ぜると茶葉は何で中央に集まるんだろう」の答えが与えられた点につきる。回転速度の違いからベルヌーイの定理が働くか、向心力により中央に向かうか、とか、ぼんやりと考えていたものの得心を得ない、本書にはそれらではない説明がある。(とはいえ、その説明に入る前の遠心分離機の研究のエピソードが強烈に面白いんだが)
本書がとみに素晴らしいと感じたのは、あの難しい数式の羅列である「流体力学」のエッセンスを伝えたことだと思う。これまで、数学的に卓越した一部の者のみがたどり着くことができた特異な領域であったはずだ、理解していない俺は当然ながらその景色を見ることは無かった。しかし本書は読者を「巨人の肩に乗せてくれ」て、見えるはずの無かった景色を見せてくれる。
「相対論の正しい間違え方」で見せたような裏口から入り、いつの間にやら本質へ届かせる切れ味鋭い説明能力は未だ健在で、プロはすげーわ、と、素直に思えた。