インテル 世界で最も重要な会社の産業史

大変示唆に富む本であった。これは、間違いなく買って正解だった本。
インテル前史とも言える、フェアチャイルドの時代の話から始まって、2人の創業者(ノイスとムーア)と1人の社員(グローブ)で始まったインテルの創業、全てが興味深い話であった。
賢い人間が、集まるとこれだけの成果が出るのかと、ため息が出るばかり。
しかし、本書では失敗の歴史も詳らかにするところが面白い。
特に気に入ったエピソードをメモしておく
・ミクロマの失敗
高級腕時計の分野に進出した過去がある。結局は老舗メーカーの作る時計が市場で勝つ訳だが、市場を強く意識したエピソードである。
インテルの技術力によってこの危機を突破するのは不可能なので、マーケティング力によって解決せよ。
もう、何だかスゴすぎるエピソード。まさかのソリューションビジネスへ参入している。
ペンティアムのバグ
割り算90億回に一度発生するバグのため、殆どの人には影響は出ない。とした科学者的な根拠に基づくアプローチでは市場を敵に回すと判断し、まさかの交換に応じることに。

他にも興味深いエピソードが沢山あるのだが、中でも一番気に入ったエピソードは、8086誕生の話。
CPU開発の主力は他の重要プロジェクト(結局成功しなかった)に入ったため、2軍メンバーだけで作らなければならなかった。専門家ではないため、作業区画を分けた分業体制で並行に設計する方法を取った。各チームの情報共有と進捗管理のために、成果(=設計ノアウトプット)を巨大な紙に「チームごとに書かせた」という。
結果的に、短い期間で、他のチームの進捗を見ながら整合性の会う設計で、出荷ができたのだそうだ。現代のプロジェクト運営にも大いに参考になる話ではある。


本書で驚かされるのは他にも多いのだが、「学者」が経営トップに立ち、技術的な知見があることを前提に、マーケティングや経営に乗り出すところが兎に角この会社の強みだったのだろう。ノイス、ムーアそして、アンディ・グローブの3人が博士で、それぞれが学者としてのキャリアから経営に転じているのである。
今は複雑すぎて、経営の専門家が指揮を執った方が良いのだろうか。今のCEOのブライアン・クルザニッチは、化学出身らしい。が、会長はMBAホルダーらしい。
経営の話ではあるが、自然科学出身者を重用しつづける姿勢は大変興味深い。