二軍監督(感想)

年末年始に帰省したときに、近所の本屋で見つけて、一気に読み終えた本。二軍監督
ロッテと、ダイエーの2軍監督、そしてヘッドコーチを歴任したハイディ古賀さんの自叙伝、というだけではなく野球界の歴史がここには書いてある。
野村監督を裏切って他の球団に入って、今でも恨み言を言われる、だとか、居酒屋で王監督と大げんかしただとか、そう言う大物を相手にした凄まじい話が、英語と熊本弁に混ざって出てくる。もの凄い男だ。大物を敵に回してどうしよう、などという暗い空気は本書には無い。
育成に触れたという意味では甲子園への遺言にも似ているが、本書に悲壮感は無い。淡々と、飄々と、食えない、食われないモテモテ男の渋みがにじみ出るような本で、これは出会ってよかったと素直に思った本。
本書の冒頭で、元ロッテの寺本について触れられていて、この部分は大変興味深かった。寺本は、松坂世代明徳義塾出身の左腕で、間違いなく周囲から期待されていた即戦力左腕、だったはずなのだが、いつの間にかバッターに転校した末に退団してしまった。
ハイディ曰く、アピールが上手くなくて損をした選手なのだそうだ。(ハイディはアピール上手だからアピールがヘタクソなのが余計目立って見えるのだろう)
多くの選手を預かる立場で、この言葉はあまりにも重い。能力的な問題があったのは事実だろうが、もし、仮に寺本がアピールが上手であれば、その後ロッテは「同じ世代の投手」久保を獲得しただろうか?とか、いろいろ考えさせられた。
サラリーマン社会でもそうではないだろうか。プロジェクトから誰かを外さねばならなくなったとき、もの言わず黙々と頑張っている人とアピールが上手な人、どっちが必要そうに見えるだろう。本当にプロジェクトの奥底まで降りて行って実はこの人は何も言わないけれど縁の下の力持ちだったんだ、というところまでイチイチ確認するプロジェクトマネージャがどれほどいるだろうか。
「自分が口に出して言わなくても上司には分かってもらえている」という思い込みがいかに危険なことなのか、本書を読むと気づく。
決断が遅くなればそれだけ、金が余計に出て行くという立場で考える人の行動記録として本書は非常に興味深く、面白い。