航空機事故に学ぶ 危険学の視点

著者はJALの航空安全に長年携わってきた人らしく、航空業界の話題が多い。そのことが本書の性格を決めている。
これまで起きた航空事故の紹介は大変興味深かった。それぞれの事故を紹介し、その原因を考察、分析をする。その流れで、
「物は壊れないように設計、製造しても、壊れる可能性がある」
「会話は脆弱なシステム」
「人間の信頼性は同一人物であっても時と場合によりバラツキが出る、(中略)人間は、人が沢山集まったら、信頼性が増すかというと、必ずしもそうではない」
「改善と改悪は紙一重
「あまりにも巨大、複雑な組織故にそれぞれを細分化、委託化して設計・製造をせざるをえなかった。その結果、品質全体を管理、把握するのが困難になっていたのではないだろうか」
などの教訓が得られる。実例を伴うと大変ためになる。
「経年機については、腐食を含め構造検査を強化すること」
など、当たり前のことを言っているように思えるが、航空業界では業界のルールを法制化する文化があるようだ。笹子トンネル事故が起こった今となっては、これを継続して実践するのが難しいことが実感できる。他人事とは言えない分析には唸らされるし、多いに参考になる。


本書が惜しいと思うのは、繰り返しが多く、やや冗長な点だ。
例えば、6章の「他業種とのベンチマーク」では

航空分野に軸足をおいた安全を議論してきたが、危険学プロジェクトには多くの業種の専門家が集まっていた。この機会を利用して、他業種と安全対策や気風について意見交換や現場を見学することから、航空と言う業種を一度外から見てみることも意味があるのではと考えた

と、他業種の話が広がるのかと思わせて、ここから8ページ航空業界の話が、繰り返される。しかも、前章で読んだような内容が、また。
勉強会の資料をまとめた本、というのをさっ引いても通読するにはしつこい。ただ、そのクドいほどのシツコさも安全を語る上で重要な点であることも理解できるが、この辺の繰り返しの多さは人によって評価が分かれると思う。


リスク管理の「モデル」が数多く出てくるので、自分の業界、自分の仕事のどこに適用可能なのかを考えながら読むと、航空業界と自分の業界の差分を知ることができ、勉強になりました。