知の逆転 (NHK出版新書 395)

ジャレド・ダイアモンドのインタビューが読みたくて買ったはずなのに、あまりに豪華なインタビュー陣に驚き、食い入るように読み込んだ。特に興味を惹いたのが、トム・レイトンのアカマイ創業の話。貧乏な数学教授という職業が気に入っていたと言うと謙虚なエピソードに聞こえるが、貧乏教授と言ってもMITの教授で、世界有数のIT企業を率いる会社を率いる(メタな存在だから)非常に特殊な存在の貴重なエピソードである。
何より、自分の考えた数学の論文を

これは一生に一度のチャンスだ。われわれが重要だと思って書いた数学の論文も、結局一度も日の目を見ないまま埋もれてしまうかもしれない。これは本当のインパクトを社会に当てられるかもしれないチャンスで、実現させるにはもう自分たちで事に当たるしかない

こういって、起業につなげるなんて、謙虚さのかけらもない。猛威を感じる。
次に面白いと感じたのは、オリバー・サックス。音楽の力を説明し、宗教と幻覚を語る。実に明快に脳について語る。脳科学という言葉を使わずに。
次いで、二重らせんのジェームズ・ワトソン。なかなかの自信家で、文章全体から猛威が漂う。
詳しくは触れないが、マービン・ミンスキービッグデータと統計に頼るAIに対して批判的な態度を取る)、そしてノーム・チョムスキー(「大きな政府」を論じている!)についても同様である。語る言葉は明快で、猛威がある。
本書の前書きにも、この猛威について触れてある

本書に登場する人々は、世界の叡智であるのはもとより、その正直さ、潔さ、勇気の点でぬきんでている。敵が百万あろうとも、自らよって立つプリンシプルを曲げたりひよったりしない。周囲の人々や、時代の潮流というものに安易に流されず、いかに不都合であっても、いかに多くの反発を受けようと、孤軍奮闘をいとわず、事の本質を見つめようとする人たち

なるほどと、思う。少し時間を置いて、もう一度読み返したいと思った。