謎の独立国家 ソマリランド

そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア


読了。
ソマリアの知識は不肖・宮嶋の「海上自衛隊ソマリア沖奮戦記」仕入れた知識が大きい。野蛮な住民の海賊行為が横行し、周辺を航行する船が拉致されるため、各国の海軍が海賊を取り締まっている。国連はこの国を見捨ててしまい(というよりも米軍が撤退する事態になったため、誰も手を出す事ができず)海賊を更正することもできない、修羅の横行する崩壊国家だと、思っていました。
だから、殆ど、情報も出てこないし(そもそも「国家」の体を成しているのかすらわからない)放置されたエリアだと、信じていました。本書を読むまでは。
本書には驚くような事実が次々と出てきます。著者の異常とも思えるバイタリティを差っ引いても、ソマリランドという地域は安全で海賊の居ない地域ということがわかります。


いろいろな読み方ができる本です。著者の高野秀行氏の過去の著作を知っていれば、紀行文として読めるし、政治のあり方として読む事もできるし、経済の参考書としても読める。
特にリバタリアニズムの実践国家(?)として、信じられないような成果を上げていることは特筆に値します。これを取材し、記録した著者には頭が下がる思いです。もしかすると、経済学上の重大な発見なのかも知れません。
一番信じられないのは、前述の通り、崩壊国家だと思っていた彼の地が、民主的にリーダーを選出し、選挙をし、政権交代を成していたという事実です。しかも、

日本の衆院・参院制度を説明したらワイヤップに「それは意味がないな」と言われてしまった。
「両方政治家がやっているじゃないか。もし与党が両方の議会で多数派なら、自動的に法案は可決されてしまう。もし上の議会(参院)で与党が少数派なら法案は通らない。もし下の議会(衆院)で多数派が三分の二以上なら上の議会はいらない。どっちにしても意味がない」

と、かなり痛い点を指摘される(指摘できるほど政治システムを考えているのです)。結果的に日本人は「自動的に法案が通る」状況を選択しましたが、外部からはこう見えるようです。貴族院なんて意味がないと思っていましたが、彼の地では有効活用しています。いや、今の日本に適用可能だとは思えないのですが、参考になる意見が書かれています。
世界的には殆ど無視されていた(?)状態に近い地域ですが、近年は状況がどうやらかわったらしい、という記事がチラホラでていました。
天国? 地獄? 新しいソマリア・リゾート(2012年6月)
しかし、安全というキーワードとは決して結びつかない印象で報道されていました。
本書はその印象をすべて覆します。世界に轟くとんでもない大スクープと言っていいと思います。
(正直に言えば、第三者による検証が欲しいところですが、)


ちなみに、著者がソマリランドプントランド、そして、南部ソマリア
へ向かったのは、2009年と2011年。
2011年11月付けで、ソマリアを取材した人はこういう記事を書いています。
あまりに悲惨なソマリア 池上彰
(署名記事なので遠慮なく名前を引用させていただく)
見事なまでに本書とは印象の異なる記事を書いておられます。
実際には、「ソマリア」ではなく、前述の不詳・宮島と同じジブチ方面からの取材のようなので、本書を読めば、プントランドの海賊だけを見てきたんだろうなと、わかります。
内側と外側ではこれほどまでに印象が違うようです。
これでは、第三者の検証とは言えないんだよな。