量子コンピューターが本当にすごい (PHP新書)

ついに出た、D-wave社の量子コンピュータの解説本だと思って買うと面食らうことになる。まずはバベッジの計算機から入り、量子論の説明までやるからだ。いろいろとつまみぐいと寄り道しすぎな印象だが、その余談の方が面白い。ただ、計算機理論が知りたくて買った人にはきついかも。シャノンとか出てこないしな。
量子論の説明は、ほとんどが量子論が形成された歴史の説明だが、コンパクトにまとまっていて面白い。各々の人物評まで入って面白い。ゲーデルや、ノイマンといった物理じゃない人が絡んでくる部分がわかるのは良い。そして、アインシュタインシュレーディンガーの女癖が悪いことをさらりと書くところも笑えた。(所有欲が強いと実在論が好きになるのかね?)


で、肝心のD-waveの量子コンピュータについては、松田先生の解説の方が本書より詳しい。
史上初の商業用量子コンピューター D-Wave (jein.jp)
本書ではさらっとしか書かれない。まぁ、D-waveのはドイッチュの考案した量子ゲートを使ったアーキテクチャじゃないし、ショアやグローバのアルゴリズムがある訳でもなさそうだから、まぁ説明に苦慮する装置なんだ、というのはよくわかった。
でも、本書にはこの解説には無い面白さがある。余談とか寄り道とか。RSAの説明は特に分かりやすくて良い。


学生だった頃、ショアやグロバーのアルゴリズムを聞いて「どこが物理なんだろう?」と思った記憶があるが、量子計算機の世界にショアの登場の時のようなイノベーションは未だ来ていないように感じた。ノイマン型が完成するまでに関わった物理学者の数に比べると、未だ少ないように感じる。人数の問題ではないか。D-waveみたいな変化球じゃなく本当に量子計算機の実用化には、ノイマンファインマンフェルミが協力するぐらいのインパクトが要るんじゃなかろうか。
とはいえ、いまのx86-64みたいに計算機の歴史は変化球がそのまま残り続けたりするので、、実用化したというのは物凄いアドバンテージだな。